2025年05月16日
【コラム】学校における働き方改革とは?学校現場の現状と取り組み
近年、日本の学校現場では教師の長時間労働が大きな社会問題となっています。教師の負担軽減と教育の質向上を両立させるため、政府は「学校における働き方改革」を推進しており、具体的な施策やガイドラインが次々と打ち出されています。
今回は、政府の取り組みを中心に、学校現場での働き方改革について取り上げていきます。
教員の働き方の現状
2022年に実施された「教員勤務実態調査」によると、前回調査(2016年)の結果と比較して勤務時間は短縮されたものの、依然として長時間勤務の教師が多い状況が続いていることがわかりました。
国が定める時間外労働の上限(月45時間)を超えて勤務している教員の割合は、小学校で64.5%、中学校で77.1%と高い状況です。教諭の1週間当たりの正規の勤務時間は38時間45分とされていますが、多くの教諭がそれを大幅に超えて勤務していることが明らかになりました。
教師の長時間勤務の要因として、以下の点が挙げられます。
・部活動の負担:平日・休日ともに部活動指導に時間を費やすケースが多い。
・児童生徒への対応:学習支援に加え、いじめ対応や保護者との面談など心理的負担も大きい。
教員の働き方改革の取り組み
教員の長時間労働や人材不足が問題視されるようになり、現在では「学校における働き方改革」が進められています。学校における働き方改革とは、
(1) 教師の勤務時間の上限設定
2019年1月には、文部科学省が「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定しました。教師の長時間勤務を是正し、教育の質を維持するための方針が示されており、以下のような時間外勤務の上限目安が示されました。
1年間の時間外勤務:360時間以内
しかし、現状では多くの教員がこの目安を超えて勤務しており、さらなる対策が求められます。
参考:公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン|文部科学省
(2) 学校業務の適正化
文部科学省の「学校現場における業務の適正化に向けて」では、教員の働き方改革の主なポイントとして以下の4つが示されています。
①教員の担うべき業務に専念できる環境を確保する
・部活動の指導や単独での引率等を行う部活動指導員(仮称)の配置促進
・部活動指導員(仮称)の法令上明確化、ガイドラインに研修の実施等の配慮を明確化
・地域の指導者を発掘し学校につなぐ地域コーディネーターの配置促進
2.学校給食費などの学校徴収金会計業務の負担から教員を解放する
・地方自治体等での学校給食費会計業務の実証研究の実施
・学校給食費の会計業務に関するガイドラインの検討
・学校給食費以外の学校徴収金でも実証研究を実施して取り組みを促進
・学校事務の共同実施を行う組織を法律上明確化して事務機能の強化を促進等
3.統合型校務支援システム等を整備し、校務を効率化・高度化する
・統合型校務支援システムの導入などによる効果の実証的な研究の実施
・共同調達・共同運用やクラウド化の推進についての導入・運用コスト削減等に関する支援
・システムに精通した人材の配置や体制の確立に関する支援の検討
・リモートアクセス等についての実証研究の実施やガイドラインの検討等
②部活動の負担を大胆に軽減する
・毎年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」を活用して休養日の設定を徹底
・運動部活動に関する総合的な実態調査を実施する
・スポーツ医科学の観点や学校生活への影響を考慮した、練習時間や休養日の設定に関する調査研究を実施する
・上記調査等の結果を踏まえて総合的なガイドラインを策定する
・日本中学校体育連盟に対しての大会運営等の見直しの要請を行う等
2.部活動指導員の配置など部活動を支える環境整備を推進
・部活動の指導や単独での引率等を行う部活動指導員(仮称)の配置促進
・部活動指導員(仮称)を法令上明確化し、ガイドラインに研修の実施などの配慮を明確化
・地域の指導者を発掘して、学校につなぐ地域コーディネーターの配置促進
③長時間労働という働き方を見直す
・ 国における定期的な勤務実態調査の実施の検討
・ 教職員の意識改革と学校マネジメントの推進
・ メンタルヘルス対策の推進
④国、教育委員会の支援体制を強化する
上記3つのポイントを着実に実施し実効性を上げるため、国・教育委員会における支援体制の整備・強化が図られています。
・ 勤務環境改善の指導・助言等を行う「学校業務改善アドバイザー」を同室に配置し、自治体等に派遣する仕組みを構築
・ 教育委員会における学校の勤務環境の改善を促進するための連携体制の構築を促進
(3) 教員の負担軽減
平成31年の中央教育審議会答申で示された「学校・教師が担う業務に係る3分類」に基づき、文部科学省では教師の負担を軽減するために業務の考え方を明確化した上で、役割分担や適正化を推進しています。これまで学校が果たしてきた役割を教員以外の職員や、学校外の機関にゆだねることで、教員の負担を軽減しようという動きです。
参考:新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)|文部科学省
・基本的には学校以外が担うべき業務
従来教師が担ってきたものの、専門的な知識や技能を要するものではなく、地域や自治体が代替可能なため、学校以外の主体へ移行することで教師の負担を軽減することが求められています。
登下校の対応…スクールガードや地域ボランティアによる見守り
放課後や夜間の見回り…自治体や警察、地域の協力による巡回
学校徴収金の管理…給食費や教材費の徴収・管理を公会計化し、教育委員会が実施
・学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務
学校運営に必要ではあるものの、教師が直接担わなくてもよい業務が含まれます。事務職員や地域の協力者、専門スタッフなどに委託することで、教師の負担を軽減できます。特に、部活動の負担軽減については、指導員の配置や地域クラブ化による、教師が休日や放課後に指導を行う負担を軽減する取り組みが全国で進められています。
調査・統計の回答業務…教育委員会や事務職員が代行
児童生徒の休み時間の対応…交代制や地域ボランティアによる監督
校内清掃…清掃員の雇用、地域協力の活用
部活動の指導…外部指導員や地域クラブへの移行
・教師の業務だが、負担軽減が可能な業務
教師の専門性が必要な業務であるものの、支援スタッフや事務職員、民間委託を活用することで、教育活動の質を維持しながら負担を軽減できます。
給食時の対応…栄養教諭や支援スタッフとの連携
授業準備…サポートスタッフによる補助
成績処理…事務職員の支援
学校行事の準備・運営…事務職員との分担や外部委託
進路指導…事務職員や外部専門家との連携
支援が必要な児童生徒・家庭への対応…スクールカウンセラーやソーシャルワーカーの活用
自治体での取り組み事例
各自治体や教育委員会では、働き方改革を加速させるためにさまざまな取り組みを実施しています。ここではその一例をご紹介します。
教職員の勤務状況の「見える化」(山梨県北杜市立長坂中学校)
スクールロイヤーの活用による課題対応の負担軽減(群馬県前橋市教育委員会)
部活動時間短縮と授業時数見直しの一体的推進(新潟県妙高市教育委員会)
共有フォルダの活用による業務負担の削減(岐阜県教育委員会)
これにより、紙での配布やメールでの個別送信の負担を削減。教頭や事務職員の業務負担が軽減され、校務の効率化が実現。必要な情報にいつでもアクセスできるため、情報共有の精度が向上。
時差出勤制度の導入(宮崎県日南市教育委員会)
ICT活用による成績処理の負担軽減(愛媛県教育委員会)
参考:令和6年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査【結果概要】|文部科学省
今回は、学校における働き方改革についてみてきました。
公立学校における教員の働き方改革は進められているとはいえ、残業代がないなどの待遇に不満を感じる方も少なくはないでしょう。より自分の希望に合った働き方を考えたい場合は、私立学校への就職・転職を検討してみてはいかがでしょうか?
通信制高校も私立の学校も多く、フレックス勤務や短時間勤務など教職員の働き方改革を進めている学校も多数あります。通信制高校の学校数・生徒数は増加傾向にあるため、教職員の需要は高いと言えます。
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