ID学園高等学校
2025年07月14日
【ID学園高等学校】先生インタビュー
ID学園高等学校は、135年の歴史を持つ学校法人郁文館夢学園が運営する広域通信制高校です。全日制高校の充実した教育と通信制の自由な学びを組み合わせ、生徒一人ひとりの「夢の実現」を本気で支援する新しい教育モデルを実践しています。
その中心にあるのが「夢教育」。自己認知を深める「夢コンパス」や、一人ひとりの可能性を引き出す「夢コーチング」、学びを社会につなげる「夢活(ID探究)」など、多彩な仕組みで生徒の成長を支えています。
今回お話を伺ったのは、元公立校の教員で、現在はID学園高校で企画部部長を務める村田先生。企画部という”裏方”からの立場で感じる、ID学園ならではの魅力や教育へのこだわり、そして教職員に求める姿勢についてお話を伺いました。
ID学園高校
企画部 部長
村田 健太郎先生
現場から裏方へ 教員経験を活かす企画部という選択肢
まずは村田先生のご経歴を伺いたいのですが、もともとは公立学校で教員をされていたそうですね。
はい、千葉県の公立中学校・高校で16年間勤務していました。最後の5年間は教務主任として学校経営全般も担当し、実務を通じて「もっと生徒に寄り添う教育をしたい」という情熱がより一層膨らむと同時に、学校現場には「現場の先生を支える組織が必要だ」と感じるようになりました。
現場で生徒に接する立場から、裏方に回って学校づくりに挑戦してみたい気持ちが大きくなったことが転職のきっかけです。ID学園には教員ではなく、企画部の職員として入職しました。
ID学園さんを選ばれた理由をお伺いできますか?
もともと教員時代から環境教育に力を入れており、その経験を活かして転職したいと思い、調べていく中で郁文館夢学園を知ったのがきっかけです。公立校では限界を感じることも多かったため、理念に共感できて柔軟な教育を進める私立の通信制高校を探していたのです。郁文館夢学園が通信制高校を運営していると知り「ここだ!」と思い、2024年4月からID学園で働いています。
現在は、企画部の部長としてご活躍されていますが、どのような業務を担当されているのでしょうか?
「企画部」という独立した部署があるのは、全国の学校でも非常に珍しいと思います。企画部は、学校全体のカリキュラム設計はもちろん、「夢教育の浸透」、「起業・ビジネスコース」や「グローバルコース」の運営、バングラデシュの姉妹校との連携や留学・帰国後の進路支援など、幅広い役割を担っています。他にも慶應義塾大学名誉教授の監修のもと、オリジナルの探究授業も構築しており、「子どもたちが夢を持ち、夢を追い、夢を叶えるための環境づくり」を牽引しています。
担任が関わることができる生徒数は、1クラス40人程度ですが、企画部であれば1700人の生徒全体に関わることができます。それが私にとっては新たな挑戦であり、大きなやりがいにもなっています。そして現場で生徒に寄り添う教員を、裏方として支えながら学校を動かしていくという、自分がやりたかったスタイルで仕事に携わることができています。
生徒の”夢”に寄り添い、生徒の”声”をもとに進化するプログラム
これまで企画されたイベントで、特に印象に残っているものはありますか?
2025年6月に実施した夏季ID国内プログラム(宿泊型特別活動)ですね。長野本校が宿泊施設にもなっているのですが、そこに3日間滞在するイベントとして、毎年実施しています。
信州の自然を楽しめるプログラムを用意していたのですが、あいにく3日間とも雨で、外出できたのは30分ほどでした。雨天用のプランも用意してはいたものの、3日間全て雨が降るとは予想外で、プログラムの大半は即興で再構成することが余儀なくされました。そのような3日間ではありましたが、開催後のアンケート結果によると生徒の満足度は97%でした。
また、参加者のほとんどが女子生徒だったことも驚きましたね。ID学園はもともと女子生徒が多いとはいえ、75人中55人が女子というのは予想外でした。
生徒満足度が97%とは驚きです。生徒さんからの具体的な感想も集まっているのでしょうか?
はい、楽しかったというポジティブな感想も多いですが、中には私たちがハッとさせられるような意見や要望もありました。
たとえば、「名札があればもっと交流ができたかも」という声があって、まさにその通りだなと思いました。全日制の学校だと校舎内で名札をつけたり、ジャージに名前が書いてあったりしますが、通信制は基本的に名札をつける文化がありません。ただの名札じゃなくて、ニックネームや趣味も書くことで会話のきっかけになりますから、これは次回すぐに取り入れようと決めました。
生徒さんの意見を大事にしていて、必要であればすぐに取り入れようとされているのですね。
ID学園はいい意味で型にとらわれない部分があって、生徒からの「こうしてほしい」という声をとても大切にしています。毎年実施するプログラムでも、全く同じ内容にするのではなく、生徒や現場の教職員の声を元に見直し、少しでも改善を積み重ねることを大切にしています。
生徒さんの声を元に作られた企画もあるのでしょうか?
そうですね。例えば、毎年4月に全校生徒に対して「夢コンパス」というアンケートを実施します。自己認知を深めてもらうために質問に答えてもらうのですが、夢を叶えるための行動指針である「夢7原則」を意識できているか、今の時点でどんな夢や目標があるのかを可視化します。
そのアンケート結果のデータはあらゆる形で活用しますが、年に6回開催する職業人講話「夢キャリアライブ」の内容やゲスト講師の決定にも反映させます。ウェブデザイン系の希望が多ければAdobeの方をお呼びしたり、IT分野のニーズに合わせてIBMの方をお招きしたりしました。
さらに、その分野に興味を持った生徒には、よりスキルを伸ばせるようオプション講座を用意します。例えば、Web学習コンテンツ 「IBM SkillsBuild(スキルズビルド)」を導入し、生徒が無料でスキルを磨けるようにする取り組みも進めました。こうした仕組みをつくるのが企画部で、「夢を見つける”きっかけ”作り」の役割を担っています。
本部と現場のタッグで生徒の”探究活動”を支援
村田先生は企画部ということで、宿泊学習などのイベント以外では、生徒さんと接する機会は少ないのでしょうか?
はい、私は本部にいる職員なので、基本的に生徒と接することはほとんどありませんが、生徒やキャンパスの教員から依頼などがある場合は例外です。今年の春も、水道橋キャンパスの先生から「進路に向けた探究活動に迷う生徒に話をしてほしい」と依頼があり、4人の生徒と座談会形式で1時間半ほど話をしました。
進路に向けた探究活動とはなんでしょうか?
ID学園では「夢教育×探究」を大事にしており、「夢活」というカリキュラムを展開しています。一人ひとりが“好きなこと”や“得意なこと”を出発点にテーマを見つけ、主体的に学びを深めていくのが目標です。
最近は大学進学を考える生徒の3〜4割が総合型選抜での受験方法を選んでいて、合格には”マイストーリー”をしっかり語れることが求められます。そして合格は、ゴールではなく、進学後の学びのスタートラインです。自分が探究したいものがはっきりしていることで、進学後や社会に出た後も着実に力を蓄え、活躍することができるようになると、私たちは考えています。
なるほど、では座談会ではどのようなお話をされ、生徒さんたちの支援をされたのでしょうか?
すでにテーマがある程度はっきりしている生徒もいれば、関心事が2つあって絞りきれない生徒もいました。2つを同時に深めるのは大変なので、まずどちらかを軸に決めて進めたほうがいいよ、と伝えました。ただ、私が言い過ぎると、それは私の探究になってしまいます。
先生はどうしても「こうしたら?」と助言したくなるものです。でも、生徒が自分で選ぶからこそ意味がある。私は「なぜそれに興味を持ったの?」「その先に何がしたい?」といった問いを重ねることで、自分の言葉で考えを整理し、語れるように支援することを心がけました。それが、そのまま自己紹介やマイストーリーの強い説得力につながることになります。
9月1日の出願に向けて、今のうちに材料をそろえておくために、逆算型で準備を進めることが大切だと伝え、論文の練習や文章にまとめる作業はキャンパスの先生にバトンタッチしました。私はあくまでも本部の職員にすぎません。きっかけ作りが役目であり、最終的にはキャンパスにいる担任の先生に戻していくのが、大きなポイントです。本部と現場の先生がしっかりと協働しながら生徒をサポートする体制を持つことが、私たちの強みであり、大きな働きがいとなっています。
「私は保育や幼児教育、小学校教育に関心があり、探究の授業で「運動」が得意分野だと気づきました。今は「縄跳びが幼児の心身に与える影響」をテーマに、保育園でボランティアをしながら探究を進めています。大学の総合型選抜入試では、こうした経験をもとに「何を学びたいか」をしっかり語れるよう準備しています。
探究の座談会で村田先生と初めてしっかり話しましたが、とても親しみやすく、一人ひとりに丁寧に向き合い、私の言葉を大切に受け取ってくれる“先生らしい先生”だと感じました。
ID学園に転入する前は、人間関係に悩んで学校に行けない時期もありました。でも、ID学園で少しずつ登校できるようになり、人と関わる楽しさを感じられるようになりました。先生方は皆さん個性豊かで、それぞれに強みがあり、共通して「優しい価値観」で接してくれます」
「私は『メディア』と『多様性』という2つのテーマで迷っていましたが、最終的に「メディア学」を軸に決めることができました。それは、座談会で村田先生に「なぜ、それに興味があるのか」を深く質問していただき、自分でも気づかなかった想いに出会えたからです。
村田先生は、始業式などでお顔は見たことがありましたが、しっかり話すのは初めてで、最初は少し堅そうな印象もありました。でも、実際はとても話しやすく、ちょうどいい距離感で真剣に向き合ってくれる先生でした。
今もSlackでやり取りをしたり、キャンパスに来られたときに直接相談したりしています。普段関わるキャンパスの先生とはまた違う視点でアドバイスをいただけて、とても勉強になります。」
通信制だからできる時間設計と全校データを活かす進路支援
ID学園だからこそできると感じる強みもありますか?
先ほどもお話しした「夢コンパス」が大きいですね。アンケートのデータをもとに、担任の先生たちは「夢コーチング」という形で、生徒の目標を一緒に立てていきます。ただ目標を決めるだけで終わらせるのではなく、日常で振り返ったり修正したりすることにより、しっかり一人ひとりに寄り添って伴走するイメージですね。この仕組み自体が、他の学校ではなかなか実現できないものだと思います。
企画部としては、全校分のデータを俯瞰しながら、全体の傾向を把握できます。職業人講話「夢キャリアライブ」や探究イベントの企画に用いることができるほか、進路指導の際には「全体の中でこの子はどういう位置にいるのか」を意識しながら話ができました。そういうスタイルでの進路指導は、全体データがあるからこそできた部分だと思います。
担任ではない立場だからこそできることもありそうですね。
それは本当に大きいと思います。担任の先生は、日常的に生徒を見ていて、その分「この子はこういうタイプ」というイメージが自然とできていますよね。もちろんそれは大事な視点ですが、私は、普段接していないからこそ先入観が一切ない状態で生徒と向き合えるのです。
もちろん責任がないという意味ではありません。距離があるからこそ、フラットに「どうしてその分野に関心があるの?」という素朴な疑問として質問ができます。それだけでも、生徒から自然に本音を引き出しやすくなりますよね。
あとは、集めたパーソナルデータを踏まえて「こういう傾向や特性が見えるけど、それをどう活かしていく?」と一緒に考えられるのも強みだと思います。データと個別の対話、どちらも大切にできるのは、ID学園ならではのアドバンテージだと感じています。
公立の学校で働いていた経験を踏まえて、通信制高校やID学園の特徴や魅力を教えてください。
通信制高校の大きな特徴は「この授業に出なきゃいけない」といった、時間の制約がないことです。全日制では時間割が決まっていて、それに従って動きますが、通信制では自分でスケジュールを立てて動く必要があります。つまり、自分の時間を主体的にデザインする力が求められます。
午前中はアルバイト、午後はキャンパスへ登校、そのほか外部活動に時間を使うことも選択できるし、「休む」という概念ではなく「今日はこれをやる」と自分で決定する。それが通信制の自由さであり、責任でもあるわけですよね。この力は、ID学園の「逆算思考の学び」と非常に相性が良くて、将来の目標から逆算して「今、何をすべきか」を考える。その習慣が自然と身についていきます。
私たち企画部は、そうした自由な時間に“きっかけ”を届ける存在です。イベントやプログラムを通して、生徒が「やってみようかな」と思えるような仕掛けを用意する。通信制だからこそできる体験を通じて、学びの幅を広げる。それが企画部としてのやりがいであり、ID学園の大きな価値だと考えています。
トップダウンではなく対話で動く現場連携と改善の文化
先生方からの意見を吸い上げる体制はどうされていますか?
私は週に1回、キャンパス担当の先生たちと定例ミーティングをしていますし、月に2回はキャンパス長会議にも出席しています。
また、企画部は本部にありますが、各キャンパスにも“出先機関”のような形で分掌が置かれていて、担任の先生と密に連携をとりながら、現場の課題に柔軟かつスピーディーに対応できる体制が整っています。
たとえば「この背景があるから、このプランはうちでは難しい」といったフィードバックがあれば、しっかり議論の場を設けてすり合わせていきます。トップダウンではなく、現場と本部が対話しながら進めていく。この柔軟さと連携力こそが、ID学園の強みだと感じています。
学校全体で“改善”の文化が根づいているのですね。
はい。ID学園では、行事やプログラムを“毎回同じ”にはしません。たとえば宿泊研修は、年に2回開催しますが、春に実施した内容をそのまま秋に繰り返すのではなく、参加者アンケートをもとに内容を改善し、常に新しい形で提供しています。卒業式も同様で、式の骨格は保ちつつも、毎年少しずつ内容を更新しています。「同じでなくていい、むしろ変えていくべき」…、そういう思いでPDCAを回していく文化が、学校全体でしっかり根づいていると思います。
以前、学校長の古澤先生にインタビューさせていただいた際も、企業のようなスピード感や仕組みづくりに驚きました。
■ID学園高校の学校長・古澤勝志先生のインタビュー記事はこちら
私たちもよく「学校と企業のハイブリッド」という表現を使うのですが、本当にその通りで、柔軟さ・改善力・スピード感、この3つをバランスよく保ちながら学校をつくっている感覚があります。普通の学校のイメージとは、ちょっと違うかもしれませんね。
ID学園では、開校から5年間で、驚くほどスピーディーに文化を定着させることができました。これは通信制ならではの機動力だと思いますし、私たちにとっての大きな武器でもありますね。
未来の教職員へメッセージ:「マイストーリーを語れる人に」
最後に、これから教員を目指す方へメッセージをお願いします。
教員という職業は、通信制でも全日制でも本質的には変わらず、大事なのは、何にでもチャレンジする姿勢、常に新しいものを追い求めていく気持ちを持ち続けていられるかどうかなのではないでしょうか。これは学校に限らず、企業に入っても、どんな世界でも、共通して求められることだと思います。
学校の現場だと、新しいことへのチャレンジがどうしても苦手になりがちな面がありますよね。だからこそ私は、“新しいことに挑戦し続けたい”という気持ちを持つ先生に、ぜひ来ていただきたいと思っています。
それから、いろいろな経験を積んできた先生、“マイストーリーを語れる先生”をとても大事だと考えています。企画部のメンバーには「オーセンティックに触れて、ナラティブに語れる人になってほしい」と伝えています。それは、「“本物”に触れた経験を持ち、それを“自分の言葉”で語れる人」を意味します。
机上の知識ではなく、本物の経験をして、それをきちんと自分の言葉で伝えられる人ような先生が増えてくれたら、教育の現場もどんどん変わっていくのだろうと、私は本気で思っていますし、そういう先生と一緒に働きたいと思っています。
私自身、子どもたちの“夢”や“好き”に寄り添いながら、一緒に試行錯誤できるこの学校で働くことに、大きなやりがいを感じています。先生という職業が「未来を一緒に考える仕事」だとするならば、ここはその醍醐味を存分に味わえるフィールドなのだと思います。
挑戦を恐れず、生徒の夢に真摯に寄り添う先生方の姿勢や学校の文化が、生徒の新しい一歩を支えているのだと実感しました。生徒の成長を支えるため、多彩な教育に取り組みたい方にはフィットしそうな環境ではないでしょうか。
本日はありがとうございました!